虚構劇

おじいちゃんが鶏の首をハネて、家の横のどぶ川に血をトクトクと流した。ただ黙ってそれを見ていた。鶏が可哀想とか何とかよりも、どぶ川を染めるこの赤い水はいつか海まで流れていくんだろうかと思ったのが、6歳の夏。

血を抜いた鶏は、おばあちゃんが解体した。ただ黙ってそれを見ていた。鶏が鶏じゃなくなっていく様よりも、おばあちゃんのこめかみ辺りに貼ってある四角い小さなシールはなんだろうって思ったのも、6歳の夏。

同じ場所で同じ時間を過ごしたとしても、6歳の少年の目にうつった景色とおじいちゃんやおばあちゃんの目に見えていたそれとは違うのだろう。年齢の差だけでなく家族でも友達でも恋人でも、限りなく似た景色を見ているだけであって、誰一人同じ景色を見ることはできないのだと思う。